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 福島町の南東部に岩部岳を背景に、海までの間に一際聳(ひときわそび)え立って見える乳房を伏せたような山があり、この山が標高三〇七・五メ-トルの丸山である。この山の近くには池の岱五二六・四メ-トルや無名の山々が突出していて、昔火山の隆起によってできたのであろう。

 丸山は名のとおり円錐状の山であるので、登山も急坂をよじ登るようなもので、不信心な人達の入山を拒み続けている。山頂には、大己貴命(おおなむちのみこと)、少彦名命(すくなひこなのみこと)の親子の神様で、縁結び、漁業者の篤い尊崇を受けていて、昔はわざわざ正月の元旦の朝がけに松前城下から、夜通 し歩み続けて来て雪中のこの山に登り、ここから矢越岬の上に登る初日の出を拝む熱心な崇敬者もいたという。

 また、この神社の途中に一か所水の湧き出している処がある。世にも不思議なことで、こんな尖った丸い山の上に水が出るのである。この水辺に薬師観音(医王観音)という石造の観音様が祀られていた。昔はこの水辺には小さな祠(ほこら)があって、了然という修験者が釜谷村に住んでいて、ここを管理していた。この薬師様の水が実は目薬水として有名であった。

 昔は今と違ってスト-ブもなく、炉端で薪を焚いて暖を取るため、家中常にもうもうとした煙が立ち込めているので、すぐ目を痛める。また、谷、川の水で顔を洗っていたので目の病に冒される人が多い。しかも、目薬も良いものがなかったので失明する人もとても多かった。そこで、この丸山薬師に願掛をし、樽や徳利(とっくり)に水を頂戴して帰り、これで目を洗うと不思議と眼病が治るといわれ、霊験あらたかな薬師様として知られ、近在は勿論(もちろん)、松前城下や箱館方面 からも、お薬師様のお水を頂戴に来る人がひきもきらなかったという。  この丸山神社は笹井家が神主として祭事を執行し、薬師様の管理は了然という修験僧が行っていたが、明治以降は修験者もいなくなり、常磐井家が総ての祭事を行っており、薬師観世音菩薩の石像は神社内に納められている。毎年旧暦の四月八日の大祭には登拝する人も多く、帰路には今も、この有難いお水を頂戴して帰ることが恒例となっているが、この山から見晴かす津軽海峡の絶景は、正に天下一といわれている。