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 八鉾杉は福島大神宮拝殿の右手前にあり、一本の杉の木から八つの幹が天を突くように伸びていて、神の威厳をさらに増そうと聳(そび)え立っている。この杉の大木は今からおよそ三二〇年前、福島村の名主で敬神の念の篤い戸門治兵衞 が、将来神社の建て替えもあるだろうから、その時に困らないようにと、多くの杉を植樹した。ある時福島村に大雷雨があり、その雷が神社前の杉の木に落ち、木はずたずたに裂けてしまった。その裂けた木が、しばらくするとまた元通 り八つの幹になって、またすくすくと伸びた。

 これを見た村人達は、「これは全く不思議な木だ、きっと神様のお使いだろう」と言って注連縄(しめなわを張り神木として崇(あが)めるようになったという。

 乳房桧は川濯(かわすそ、かわそ-川裾)神社の右下手にあり、大人が手を広げて七人もかかるというアスナロ桧の大木である。川濯神社は明応元年(一四九二)に福島川の河口近くに建立され、月ノ崎明神社と共に、福島では最も古い神社の一つである。この神社の祭神は伊邪那岐命(いざなぎのみこと)、伊邪那美命(いざなみのみこと)、瀬織津姫命(せおりつひめのみこと)の三柱の神々である。この神々は生産、生殖を司る神であるので、川と濯(すそ)(裾)につながる女性の神様

で、昔から村の熱心な女性講中によって維持、祭礼が行われてきた神社である。  その後社殿が腐朽し建て替えが必要になったが、福島川は暴れ川で度々洪水を引き起こすので、何とか安泰な場所に社殿を建て替えようと場所を捜していたところ、稲荷山の前の方に格好の場所で、そこには巨大な乳房のようになった瘤(こぶ)が沢山ついた桧の木があり、実に女性の神様を祀るには四神相応の地と定められ、神社は移転した。

 以来このアスナロ桧の大木は乳房桧と命名され、神木として崇(あが)め祀られているが、村内のご婦人方で乳の出の少ない人は、この神木の瘤をさすれば乳の出が良くなると信じられていて、参拝する人は多い。また伝統的な女性による川濯神社の祭礼は、今も十年に一回五月の母の日に芬々とした気色のうちに行われており、道南風物詩の一つにもなっている。